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名古屋高等裁判所 昭和49年(ネ)82号 判決

控訴人 林正朗

右訴訟代理人弁護士 由良久

被控訴人 林慎太郎

被控訴人 林静子

右両名訴訟代理人弁護士 伊藤典男

梅本修二

村井優文

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決添付物件目録五行目に「字地蔵壱五番地」とあるのを「字地蔵壱五番壱」と更正する。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否は、次に付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、右記載をここに引用する。

(控訴人の主張)

控訴代理人は、本件控訴状に被控訴人として林慎太郎のほかに「梅本修二」なる氏名を記載したが、右は被控訴人林静子の誤記である。これが誤記であることは、「梅本修二」は原審における右静子の訴訟復代理人であること、「梅本修二」に付記された住所地が林静子のそれと同一であること、林慎太郎と右静子のほかには被控訴人となるべき者が存在しないこと、控訴の趣旨中に被控訴人が複数であることを示す「被控訴人ら」との字句が使用されていることにより明白である。よって、控訴状中被控訴人の表示として「梅本修二」とあるのを「林静子」と訂正する。

(被控訴人らの主張)

本件控訴状に被控訴人として「梅本修二」なる記載があること右梅本が原審における原告林静子の訴訟復代理人であることは認める。しかしながら、控訴状の表示からは「梅本修二」を被控訴人と認めるほかないのであって、これをもって単なる誤記ということはできない。それ故、原判決はその正本が控訴人に送達された日である昭和四九年一月三一日から二週間を経過した同年二月一五日までに林静子に対する控訴の提起がなかったことにより同人に対する関係では既に確定してしまっているものである。また、梅本修二に対する控訴は、原審において原告でなかった者に対する控訴として不適法であり、却下を免れない。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  まず、本件控訴状における被控訴人の氏名の訂正の許否について審案する。本件控訴状において被控訴人として「林静子」なる氏名の記載は存在せず、「梅本修二」なる氏名の記載の存すること、右梅本修二が原審における林静子(原告)の訴訟復代理人であることは当事者間に争いがない。しかして、記録によれば、原審における原告は林慎太郎と林静子の両名であり、弁護士梅本修二は右両名の訴訟復代理人であったこと、控訴人は原審において被告として抗争したが敗訴し本件控訴に及んだものであるが、その控訴状には被控訴人の表示として「愛知県渥美郡田原町大字大久保字地蔵一二の五被控訴人林慎太郎、同所同梅本修二」との記載があり、不服を申し立てられた第一審判決の表示として本件原判決が記載されていること、右控訴状の作成者は弁護士由良久であるが、同弁護士が右控訴状とともに当裁判所に提出した(昭和四九年二月一四日当裁判所受付)控訴人林正朗の委任状には相手方の欄に「被控訴人林慎太郎、林静子」と記載されていること等の事実が認められる。右事実関係によれば、本件控訴状において被控訴人として「梅本修二」とあるのは、控訴代理人由良弁護士が「林静子」とすべきところを誤記したものであることが明白である。従って、本件控訴状による控訴の効力は「梅本修二」なる表示の下に真実の被控訴人である林静子に及び、控訴人は当審における本訴の係属中右誤記による瑕疵を補正することが許されるものといわなければならない。記録によれば、控訴代理人は当審昭和五〇年一月二七日午前一〇時の第七回口頭弁論期日において被控訴人梅本修二を被控訴人林静子に訂正する旨陳述したことが明らかであるから、これによって本件控訴状における瑕疵は補正されたものというべきである。右説示に反する被控訴人らの主張は採用できない。

二  そこで実体に入って審究するに、当裁判所もまた、被控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきものと判断する。その理由は次のとおり補足するほか原判決理由説示と同一であるから右記載をここに引用する。

1  ≪証拠省略≫によれば、本件土地以外の亡林義尾が亡林嘉七から相続した土地の多数が本件土地と同様の原因に基づき同一の日時に右義尾から亡林一二に移転登記されていることが認められる。しかし、このことは必ずしも右登記簿上の所有名義移転につき実体上の原因があったことを示すということにはならない。かえって、本件においては、右義尾がかくも多数の土地(本件土地とあわせ相続した土地のすべてであると推認される。)を昭和一三年二月一〇日ころ右一二に売り渡さねばならなかった事情は全く窺われないのであるし、嘉七が生前に所有地を一二に贈与したものとすれば、大学まで卒業させた一二に殆んどすべての不動産を与えてしまい、人並みの体でない義尾に居宅以外何も遺さないというような不合理な結果になるところから見て、本件土地以外の多数土地についても登記簿上の名義書換が行われていることは、むしろ、被控訴人らの主張する再抗弁事実を裏付けるものということができるのである。

2  ≪証拠省略≫によれば、本件土地以外の義尾が嘉七から相続した農地で一二の所有名義に書換えられていたものは、自創法により、不在地主の所有地として買収され、耕作していた義尾や訴外の小作人に売り渡されたこと、該農地の被買収者給付金八万円を控訴人が国から受領するにつき被控訴人静子の実母小久保弥生が昭和四二年中協力したことが認められる。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、右弥生が本件土地その他義尾の相続した土地が登記簿上一二名義に書換えられた事情につき詳細を知ったのは本件紛争の激化した昭和四四年以降であることが窺われるし、右給付金の額も僅少であり、農地解放自体は被控訴人側に有利なものであったこと等の事情を参酌すると、≪証拠省略≫によってはいまだ原審の認定を動かすには足りないというべきである。

3  ≪証拠判断省略≫

4  控訴人は、亡義尾と亡一二間の本件土地の売買が仮装行為であるとしても右は義尾の債権者からの強制執行を免れるためなされたものであるから不法原因給付であると主張するが、右行為は刑法に強制執行不正免脱罪(同法九六条の二)が追加制定される以前のことにかかり、債権者から詐害行為として取消しを求めうるに止まり、不法原因給付とはならないから、右主張は採用することができない。

三  右と同旨に出た原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお、原判決添付物件目録中に明白な誤謬があるので、これを主文第三項のとおり更正することとする。

(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 川端浩 裁判官吉川清は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 宮本聖司)

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